東京第5検察審査会の小沢氏「起訴相当」議決とツイッター現象

 私は先にCML(注1)という公開型のメーリングリストで現在のわが国のツイッター現象、そのツイッターのワンフレーズのつぶやきの特性にふれて、私たちがすでにさんざん反省したはずの小泉純一郎流の「ワンフレーズ・ポリティクス」の小児病的ポピュリズム政治へと再び退行させる蓋然性の大きい現象というべきではないか、ということ。また、ツイッターの基本的性質としての脈略のないつぶやきは、私たち日本人が関東大震災で経験したあの忌わしい「流言飛語」という凶器にいつ豹変しないとも限らないこと。また、私たちが安易に現在のツイッター現象に群がることの危険性についての私見を述べたことがあります。

 上記で私のいう「ツイッター現象の危険性」とは具体的にはどういうことなのか? 先月27日の東京第5検察審査会の小沢民主党幹事長「起訴相当」議決に関してあった同メーリングリスト上の反応に即して検証してみようと思います。

 第1。「小沢氏『不起訴不当』を申し立てた『市民団体』は『在特会』」という指摘が同メーリングリスト上でありました。同指摘は下記で述べるとおり誤った指摘というべきですが、その誤った指摘をはじめの段階で拡散していたのはやはりツイッターでした(注2)。

 しかし、

(1)同在特会代表の桜井誠なる人物は「そもそもこの事件で刑事告発をしていない」。「この事件で検察審査会に申立てできるのは、『告発をした者』でなければならない」のだから、桜井誠なる人物が「不起訴不当」を申し立てることはできない(注3)。
 
(2)この桜井誠なる人物が自身のブログで公表している受理書番号第2号と小沢氏についての東京第5検察審査会の議決書における事件番号第10号は本来一致しなければならないが異なっている(同上)。
 
 したがって、東京第5検察審査会の議決における審査申立人は桜井誠なる人物以外の者ということにならざるをえません。

 第2。同じく「検察審査会の検察審査員は、無作為に抽選で選出されていませんよ」というツイッター上のつぶやき(注4)も虚偽といわなければなりません。ツイッター上のつぶやき人は「検察審査会の検察審査員は、無作為に抽選で選出されていませんよ」とつぶやく根拠として、自身が以前に経験した「(検察)審査員の方からふさわしい人を推薦してほしいと依頼があったので推薦しました」という事例を挙げるのですが、この事例はありえない事例といわなければならないからです。

 検察審査会法第9条には「検察審査会事務局長は、(略)検察審査員候補者の員数を当該検察審査会の管轄区域内の市町村に割り当て、これを市町村の選挙管理委員会に通知しなければならない」とあり、同法第10条には「市町村の選挙管理委員会は(略)通知を受けたときは、当該市町村の選挙人名簿に登録されている者の中から(略)検察審査員候補者の予定者として当該通知に係る員数の者(略)をくじで選定しなければならない」とあります。そして、同法第20条には「検察審査会事務官は、裁判所事務官の中から、最高裁判所が、これを命じ」るとあり、また「最高裁判所は、各検察審査会の検察審査会事務官のうち一人に各検察審査会事務局長を命ずる」とあります。

 以上からわかるように「検察審査員」が検察審査員を選定する過程に介入する余地はまったくないのです。仮にある検察審査員が次の検察審査員を推薦したとしても(そういうこともありえませんが)、その推薦はまったく無効です。

 第3。フリージャーナリストの岩上安身氏発の弁護士の郷原信郎氏の見解とされる「これで検察が起訴するなら、今までの捜査はいったい何だったのか。専門家集団と称する検察などいらない、市民が起訴すればいい」という市民から構成される検察審査会の存在意義さえ否定するツイッター上のつぶやき(注5)も郷原氏の下記の直接の発言と比較すれば正しくないことがわかります。

■郷原信郎名城大学コンプライアンス研究センター長の定例記者レクでの検察審査会の「起訴相当」議決についての発言(THE JOURNAL  2010年4月28日付)
http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2010/04/post_558.html

 上記発言を読むと、郷原氏は、「公訴権の行使や検察運営に関し、民意を反映させる」という側面における検察審査会制度はそれ自体として肯定的に評価していて、ツイッター上で見たような検察審査会の存在意義さえ否定する暴言のたぐいの認識は一切示していません。この例からもツイッター上の言説の危うさと言説としての限界性を知ることができるでしょう(この場合のツイッター上の発信人はジャーナリストという物書きを仕事とする言論人です。その言論人をしてをや、ということです)。

 以上はツイッター的情報を根拠に小沢氏及び民主党擁護の自説を補強しようとするある種の人たちの思想の愚かしさについて述べたものです。

 しかし一方で、今回の東京第5検察審査会の小沢民主党幹事長「起訴相当」議決について、検察審査会制度の「民意を反映させる」側面は評価しながらも、「もし弁護士(元裁判官)が議決書の作成を補助したというならお粗末な内容。このような『冷静さを欠く内容』と思われる議決書では検察審査会に強制起訴権限を付与したせっかくの改革が国民から支持されない心配を感じる。法律家である審査補助員の役割が問われる」(注6)などの批判があるのは当然だと思います。今回の東京第5検察審査会の「起訴相当」議決は専門家ではない法律の素人の眼から見ても少し以上にヒステリックです。

 その理由はどうも上記においても阪口弁護士によって少しふれられている「法律家である審査補助員」周辺にあるようです。この事件の審査補助員について前出の上脇博之神戸学院大学法科大学院教授が興味深い事実を指摘をしています。この事件の審査補助員となった「弁護士が所属する法律事務所の『40周年祝賀会』が今年3月25日に開催され、自由民主党総裁の谷垣禎一衆議院議員ら(中井洽・国家公安委員長らも)が来賓として挨拶して」いたということです(注3)。山崎行太郎の政治ブログ『毒蛇山荘日記』によれば(注7)、この弁護士の名前は米澤敏雄氏。所属する法律事務所の名称は麻生法律事務所(ちなみにこの情報もはじめはツイッターから取得したようではあります。また、法律事務所の名称の「麻生」はあの元首相の「麻生」のことか、と疑いたくもなりますが、別人の「麻生」のようです)。同ブログで山崎氏も「政治的中立性は担保されているのか?」と疑問を呈している人物です。東京第5検察審査会の議決がなぜヒステリックなほどの議決になったのか? おおいに怪しんでいい事実の指摘だと思います。

 検察審査会の問題については次の点も指摘しておく必要があるように思います。市民から選出される検察審査会であってもその審査が不当な場合もありえるということです。10年ほど前に地裁、高裁、最高裁、差し戻し第一審、第二審という25年間5回もの裁判を経て、やっと無罪判決が確定した甲山事件と呼ばれる冤罪事件をご存知だと思いますが(注8)、この冤罪事件の端緒をつくったのは、検察が証拠不十分で不起訴処分にした同事件の「容疑者」を「不起訴不当」の決議をした市民から選出されたはずの検察審査会でした。同検察審査会は結果として25年もの苦難をこの無罪判決を勝ち取った当時の「容疑者」に強いてしまったのです。このことは忘れてはならないことだろうと思います。

 一方、東京第5検察審査会の今回の議決を批判するにあたって「疑わしきは罰せず」という刑事裁判における原則を持ち出して批判する向きがありますが(注3)、この「疑わしきは罰せず」の原則はあくまでも刑事裁判における原則であり、検察起訴の際の原則ではありません。「疑わしきは罰せず」の原則と検察の挙証責任とを混同すべきではないでしょう。「疑わしきは罰せず」の原則は「ある事実の存否が判然としない場合には被告人に対して有利に」という原則のことです。一方、挙証責任の方は、「「ある事実の存否が判然としない場合においても挙証責任を負えるだけの合理的な疑いがあれば足る」とする謂のはずです。両者を混同して検察審査会の起訴議決のハードルを高くすることには慎重であらねばならないだろう、と思います。

注1:正式名称は市民のML(Civil mailing list)
http://list.jca.apc.org/manage/listinfo/cml
注2:「杉並からの情報発信です」ブログ(2010年2月10日付参照)。同ブログに「『twitter』で周知済でしたが、謎の市民団体『真実を求める会』が検察審査会に小沢民主党幹事長不起訴を『不服申立て』たのに続いて、『在特会』桜井誠代表と『博士の独り言』島津義広氏が「不服申立て」に加わったことが事実として確認できました」という記載があります。
http://blog.goo.ne.jp/yampr7/e/441a40d35a2a99ef285c0b608b3fa56e
注3:「上脇博之 ある憲法研究者の情報発信の場」ブログ(2010年4月30日付)参照http://blog.livedoor.jp/nihonkokukenpou/archives/51386760.html
注4:下記ツイッター記事(sukiforumcom,charlie)参照
https://twitter.com/sukiforumcom/status/12974019280
注5:岩上安身氏の下記ツイッター記事(2010年4月27日付)参照
http://twilog.org/iwakamiyasumi/date-100427
注6:「弁護士阪口徳雄の自由発言」ブログ(2010年4月27日付参照)
http://blogs.yahoo.co.jp/abc5def6/61493553.html
注7:「山崎行太郎の政治ブログ『毒蛇山荘日記』」(2010年4月29日付参照)
http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20100429/1272491444
注8:『甲山事件』(フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」参照)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B2%E5%B1%B1%E4%BA%8B%E4%BB%B6

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