ますます危険にさらされる歩行者

 今年も「秋の全国交通安全運動」が9月21日~30日(木)までの10日間に予定されている。今年の運動重点には、①夕暮れ時と夜間の歩行中・自転車乗用中の交通事故防止(特に反射材用品等の着用の推進)、②全ての座席のシートベルトとチャイルドシートの正しい着用の徹底、③飲酒運転の根絶が挙げられている。一方で平成22年度の『交通安全白書』では、平成18年に策定された「第8次交通安全基本計画」の政策評価に触れ、交通事故による24時間死者数(*1)を5500人以下などとする目標を達成したと評価している。同基本計画では「道路交通事故のない社会を目指して」「人優先の交通安全思想」が基本理念として掲げられている。しかし全体的には、依然として「歩行者のほうが気をつけろ」という発想が一貫しているように思われる。

 最近の新聞投書に「そこのけそこのけ車走る横断歩道」との投稿(65歳・男性)が掲載された(*2)。それによると、最近は横断歩道を無視して歩行者の目の前を突っ切る車が増えたように思われ、危険を感じるという指摘である。さらに複数の警官にこの問題を問いただしたが「歩行者が安全を確認すること」という返答のみであったとのことである。これは個人の印象に基づく意見であるが、実際はどうなのだろうか。図1は警察の統計(*3)より、「人対車」つまり歩行者が車に轢かれる(跳ねられる)事故の件数の経年変化である。これによると、「人対車」の事故件数は年々着実に減っているように見える。

図1 「人対車」の事故件数の推移

 しかし図2をみてほしい。図2は国交省の「パーソントリップ調査」という統計(*4)から整理したものである。これは人々がどのような手段で、毎日平均して何回外出(通勤・通学・私用などあらゆる屋外での移動)しているかを調査したものである。これは5~7年おきに行われる調査で交通状況の経年変化がわかる重要なデータである。最新年の調査は2005年なのでこれ以後のデータはないが、いずれにしても図2に示すように、外出の手段として、年々歩いて外出する人が減り、逆にその分だけ車を使う人が増えている傾向が明確にわかる。

図2 平均外出回数とその手段

 

 図1でみれば、たしかに「事故件数」は減っているが、歩いている人が減っているとすれば「人対車」の事故件数が減ることは当然である。歩行者の側からみて「外出回数あたり」の安全性は向上しているのだろうか。そこで「リスク」という観点、すなわち外出回数あたりで事故に遭遇する確率に換算して整理したものが図3である。図にみられるように、外出回数あたりの事故件数は増加している。つまり歩行者の側からみれば車に轢かれる(跳ねられる)リスクは増大しており、安全性は改善されていない。むしろますます危険にさらされるようになっているのである。

図3 平均外出回数とその手段

 最近もアクセルとブレーキの踏み間違いで沿道の歩道や商店に突っ込むといった事故がたびたび報道されている。マスコミも飲酒運転には厳しいが、本質的な交通事故対策に触れる報道は少ない。「自動運転車」などの提案もあるが、一部の高級車種で追突防止機能などが装備されているのみであり、特に交差点・横断歩道・そのほか生活道路での交通事故を確実に防止するようなシステムはまだ提案されていない。またどのような方式が実用的に普及するのか、全く見通しはない。もし道路側にも何らかの装置が必要となれば、それを設置する費用は非現実的な巨額に達するだろう。現実的に交通事故を確実に減らすには、車以外の交通手段に転換するしかない。一連の提案については筆者の過去記事(*5)を参照してほしい。

(*1)警察統計による交通事故死者数(24時間以内)に対して、厚生統計による交通事故は例年4割ほど多い。このため警察統計は交通事故を過少評価しているとの批判があり、現在は警察統計にも双方が記載されている。
(*2)『朝日新聞』「声」欄、2010年9月3日。
(*3)交通事故総合分析センター『交通統計』各年版より。
(*4)国土交通省都市・地域整備局「平成17年全国都市交通特性調査」
http://www.mlit.go.jp/crd/tosiko/zpt/index.html
(*5)交通事故防止に関する筆者の過去記事リスト
なぜ交通事故は減らないか(1)自動車事故は確率的に不可避
http://www.news.janjan.jp/living/0703/0703041018/1.php
なぜ交通事故は減らないか(2)地域の事故を激減させるには
http://www.news.janjan.jp/living/0703/0703041027/1.php
なぜ交通事故は減らないか(3)本質的な対策は公共交通整備
http://www.news.janjan.jp/living/0703/0703041031/1.php
なぜ交通事故は減らないか(4)おそろしい国民皆免許
http://www.news.janjan.jp/living/0703/0703081263/1.php
なぜ交通事故は減らないか(5)標識、表示、政策は無茶苦茶
http://www.news.janjan.jp/living/0703/0703081265/1.php
交通事故はなぜ起きる~明日はあなたも被告席
http://www.news.janjan.jp/living/0801/0801158955/1.php
なぜ交通事故は減らないか(補)ムダ看板とムダ標語
http://www.news.janjan.jp/living/0703/0703111488/1.php
公共交通が人命を救う
http://www.news.janjan.jp/living/0901/0901010539/1.php
交通事故防止~「加害者」にならないために
http://www.news.janjan.jp/living/0812/0812160560/1.php
破綻した「飲酒運転厳罰化」対策・警視庁警視が泥酔運転
http://www.news.janjan.jp/living/0811/0811190903/1.php
懲戒免職で終わらせるのか~酒酔い当て逃げ警視事件
http://www.news.janjan.jp/living/0811/0811290490/1.php
事故防止効果大きい 歩車分離信号
http://www.news.janjan.jp/living/0707/0707088647/1.php

上岡直見記者のプロフィール

JanJanニュース創立から参加している。交通政策・環境政策がテーマ。「政治談議」でなく論理と数字で評価することを重視。

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