お金では買えないモノ ~アコーディオン弾きという生き方~ 〔前〕

 

 11月下旬、銀杏が黄色く色づいた東京・上野公園(台東区)で、40、50人ぐらいであろうか、大きな人垣ができていた。何ごとかと思って、人をかき分けて中の輪の中に入ると、人々の視線の中心で、一人の女性が、アコーディオンを弾いている。「あんざいのりえ」さん――20歳過ぎでアコーデオンと出会い、以後10数年、プロのアコーデオン弾きとして、上野公園で演奏したり、町の酒場で音楽を奏でたりしている(当然のことながら、東京都が公認する大道芸人〔ヘブン・アーチスト事業〕のライセンスも保持している)。また2002年からは、毎夏、本場フランスの路上で、向こうの芸術家たちと肩を並べて腕を競っているというから、相当の実力のようだ。

60代の男性が鞄から取り出して見せてくれた、あんざいさんのフォトアルバム。とてもよく撮れていてその写真の腕前にも驚かされた。(撮影・三上英次 以下同じ)

 「彼女はね…、上野のアイドルだよ」

 あんざいさんのファンとして、かれこれ4年、彼女を撮り続けている60代の男性は、こう彼女を評する。アコーディオンという楽器の魅力もさることながら、あんざいのりえという一音楽家の魅力は何なのか、尋ねてみた。

 「ひとことで言えば、人間的魅力だよ。彼女の音楽には、それが出ている。見ていてごらんよ、彼女は、誰彼となくわけへだてをせずに、誰に対しても優しいんだよ…、その人間的な優しさが、アコーディオンに出ているんだ――」

彼女のアコーデオンの音色に、通りすがりの外国人夫婦も手をつないだまま、しばし足をとめる。

 その“解説”を聞きつけて、別の男性も、一眼レフを片手に持論を述べた。

 「彼女の魅力は、いつ見ても笑顔で演奏しているところですよ、ここ何年か通っているけれども、彼女のきげんの悪いところを見たことがない。だから、ぼくは趣味で写真をやっているんですが、いつシャッターを切っても、必ず笑顔が撮れる。その意味で、最高の被写体です」

 桜並木の通り道、観光に来た外国人や、年配の夫婦、子ども連れの若いカップルなどがふとアコーディオンの演奏を耳にし、歩みを止める。人垣の内側では、韓国から観光に来た3人組が、地べたに座って、彼女の演奏に耳を傾けていた。

 約40分、ひと通りの演奏が終わって、彼女にインタヴューしていると、通りすがりの自転車に乗った男性が、何とパックコーヒーをふたつ差し入れてくれた。驚くかたわらで、「いいんです…、お店などであまったコーヒーなどを差し入れてくれるんです」とあんざいさんは慣れた様子だ。

彼女を取り囲む人垣とは別に“ステージ”後方で静かに演奏に聴き入る人たち。彼女の前方で地べたに座って聴く男性らは韓国から来た旅行客だ。彼らは、このあと自分たちの身にふりかかる“災難”についてまだ知らない。

 聞けば、彼女は、趣味としてアコーディオンの演奏をしているのではなく、プロの「アコーディオン弾き」として、定期的に路上で演奏しているのだという。何でも、プロとしてやっていこうか迷いのあった時に、フランスで、ルーマニアから出稼ぎにやって来ていた80歳前後のアコーディオン弾きの女性に会って衝撃を受けたらしい。

 「その人は、若くしてご主人を亡くして、11人の子どもを女手ひとつで育てたと聞きました。そして、子どもたちも、それぞれに楽器をやっていて、彼女はフランスなどをめぐって、1年分の生活費を稼いでは、またルーマニアに帰るという…ジプシーの音楽家なのです。その、もうおばあさんなのですが、演奏している時の存在感がすごくて、私も、あの人のようになりたいと思って、プロのアコーディオン弾きとして生活することにしました」――「ジプシー」という言葉に敬意をこめて、彼女は自分の生き方に決定的な影響を与えたある女性の半生について語った。

彼女が時折見せる、強烈な〈寄り〉。思わぬ肉迫に、韓国からの3人組もタジタジ…。

 コーヒーを差し入れてくれた男性は「彼女のことは、もう7、8年前から知っているよ」と少し自慢げに胸を張る。

 「大道芸…なんて言うとね、何か〈浮き草稼業〉のように見えるじゃないか…。でも、今は、どんなに堅実な会社だって、5年後、10年後はわからない。5年後に会社は存続していたとしても、自分がその会社に居続けられているかもわからない。だから…、今の世の中では、自分の好きなことで食べて行くという彼女の生き方のほうが堅実かもしれないよ。ぼくはねぇ、数字やノルマに追われてあくせくと過ごすより、お金にしばられないで、まさに自分の音楽の腕だけで自由に生きる彼女の生き方に共感するんだね。彼女の演奏を聴いたろ?アコーディオンの演奏だけであれだけ人を引きつけられるんだから大したものだよ」

 プロのピアニストやバイオリニストというのなら、何となく、そのライフスタイルは想像がつく。しかし、考えてみると、プロのアコーディオン弾きというのは、はたしてどんな生活ぶりなのだろうか…。関心があったので、彼女に会って、アコーディオンにかける思いやふだんの生活について聞いてみることにした――。

(続く) 

〔後編〕 ⇒ http://www.janjanblog.com/archives/26410

彼女の演奏には、手拍子あり、笑いありで、ライブ演奏ならではの演奏者と観客との一体感がある。

〈関連サイト〉

◎「あんざいのりえ」オフィシャルサイト

 http://pinkparachute.jpn.org/top/

 

〈参考記事〉 ~お金では買えない自分にしかできない生き方~

◎ 靴みがきを続けて60年、沢村さんの場合

   http://www.news.janjan.jp/living/0912/0912154430/1.php 

◎ 合気道師範、安藤毎夫氏の場合

 (前)http://www.janjannews.jp/archives/2687363.html

 (後)http://www.janjannews.jp/archives/2703370.html

 

  

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pen5362@yahoo.co.jp (三上英次/現代報道フォーラム)

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