書評:『完全教祖マニュアル』(架神恭介・辰巳一世)
――「宗教を作る側」の視点からの宗教入門書――
■「宗教の本質」をザックリ理解するために
宗教には、それを信じない外部の人間にとっては不可解な現象が多い。重箱の隅をつつくような煩瑣な教義論争もそう。意味不明な食物規制やしきたりもそう。ヘンテコな宗教建築もそうである。
しかし、ここで「理解不能」といってしまえば相互理解は永遠に不可能だ。だからといって信者や教祖にインタビューしても、「これは神のご意思なのです」とか、「聖典の第○○節第×章に……と書いてあります」とか、「何だかわからんが昔からそうすることに決まっている」とか言うだけで、まともな回答はおよそ期待できそうにない。
ひとつここは、私たち一人一人が「宗教を作る側」の立場に立ってみよう。あれやこれやの不可解な現象が意外にすっきり理解できるかもしれない……。
そうした考えで書かれた宗教入門書が本書である。そのため本書は、「誰にでも新興宗教の教祖としてサクセスできるマニュアル」(実用書)という体裁をとる。
《教祖は決して難しいものではありません。本書を読めば誰でも簡単に教祖になることができます。本書はさまざまな宗教の分析から構築された極めて科学的なマニュアルです。科学ですから決して怪しい本ではありません。皆さん、本書を信じて、本書の指針のままに行動して下さい。本書の教えを遵守すれば、きっと明るい教祖ライフが開けるでしょう。教祖にさえなれば人生バラ色です! あなたの運命は、いままさにこの瞬間に変わろうとしています! 本書を信じるのです。本書を信じなさい。本書を信じれば救われます――。(本書9ページ)》
何だこれは、と思うかもしれないが、こうした物言い自体についても親切なことに「マニュアル」の中できちんと自己言及されている。
《なにも馬鹿正直に「私がやっているのは宗教です」などと言う必要はありません。「私は科学的な話をしているのです」としれっと言い放ってやれば良いのです。……大丈夫、普通の人は「これは科学です」とさえ言っておけば絶対に疑いません。これを巧くやれば、信者を引っ掛けることなど全く造作もないことです。普通の人は新興宗教の言ってることは頭から疑ってかかりますが、科学だと言い張りさえすれば、無条件で信じるところからスタートしてくれるのです。(本書121ページ)》
これを読めば、やたら「科学」を標榜したがる「○○の○○」や「×××××」の言説の意味が非常に理解しやすくなる。また、通常は「宗教」とは理解されていない、私たちの身近にあるさまざまな事象や習慣についても、実は宗教と大差ない原理で成り立っているものが多数あることに気づかされる。
はっきり言って本当に「教祖になる」ための実用性は限りなくゼロに近い本書であるが(こんな本を真に受けてこの本のとおりに教祖になろうとするような人間が仮にいるとすれば、おそらくその人は間違いなく、「教祖」より「信者」向きの体質だ)、「笑いながら読み進めて、いつの間にやら宗教についての知見が身についてしまう」(ジャッキー氏書評)という意味では「一回り回った実用書」であるといえよう。
■さらに興味のある人は橋爪大三郎『世界がわかる宗教社会学入門』へ
本書は私たち日本人が「宗教という現象」を理解するための入門書としてうってつけの好著である。なお、本書を読んでさらに宗教について知りたい人には、本書の筆者は自らのブログで、「各宗教についての知識をコンパクトにまとめた本」として橋爪大三郎の『世界がわかる宗教社会学入門』(ちくま文庫)を推奨している。「全くの初心者はへらへらっと『教祖マニュアル』を読んで軽く体を慣らしてから、『宗教社会学入門』を読むと楽かな、と思います。この2冊だけでも社会に出てから宗教関係は90%まではいけると思います」と述べており、興味を引かれた読者はぜひ挑戦を。また、同書であまり触れられていない、江戸期以降の日本の新興宗教の概要を大づかみするには、島田裕巳『日本の10大新宗教』がおすすめである。
1983年8月22日生まれ。大阪府生まれ。
トヨタ自動車期間従業員・トヨタ車体勤務の派遣社員などを経て、2008年3月から愛知県の個人加盟制労働組合・名古屋ふれあいユニオンの運営委員長。2011年4月から同労組運営委員。
電子メール:sakaitooru1983@excite.co.jp
ホームページ:『酒井徹の日々改善』
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