東電中間報告書の検討と「大前レポート」
2011年12月2日、東京電力は「福島原子力事故調査中間報告書」を公表した(*1)。同時に原子力安全・品質保証会議事故調査検証委員会からの中間報告書に対する意見も付帯している。報道によっては「自己弁護ともとれる内容で、報告書を検証した外部の専門家らの指摘ともかみ合わず、不明な点も多く残った(*2)」との批判もみられたが、委員会のコメントを除いて本体部分で600ページ弱にのぼる膨大な資料で、読む人が読めば多面的な検討が可能となるような重要な情報も多い。短時間では限りがあるが一部の検討を紹介する。
報告書のうち「主な時系列」のパートには、プラントパラメータについては、5月16日に公表済みの「福島第一原子力発電所の事故に係わる運転記録及び原子炉施設等の事故記録」を参照するようにとなっている。しかしこの記録では事故初期のデータが空白で、3号機の爆発より後の大まかな状態しか掲載されていない。これに対して今回の報告書には、プラント関係者が「生(なま)データ」などと呼ぶ計器の読み取り値や記録紙実物のコピーが収録されている。記録紙は汚れたり水でにじんだような跡もみられ緊迫感が伝わってくる。吉田前所長以下、現場の人々が体力・気力の限界まで努力したことは高く評価しなければならない。
まず不審に思ったのは、今回の東電報告書の写真や図表が、どうも見たことがあると思ったら、筆者が過去の記事(*3)で疑問を呈した「大前レポート(*4)」に使われていたものと全く同じものが多くみられるということである。大前氏は「福島第一原発事故に関して世界で最も詳細なリポート」と自画自賛しているが、要するに「大前レポート」のほうが東電からの事前リークによって作成されたと思われる。しかも「大前レポート」には、事故の重要な鍵を握るプラントパラメータについて言及がなく、ただ電源の多重化を提唱しているのみである。いずれにしても今回の東電報告書が出た段階で大前レポートは無価値である。
東電報告書のデータについては多面的に検討しなければならないが、注目される一つの点は1号機の圧力急低下である。14:46の地震から15:27の津波第一波到達までは、データは正常に取られているようである。ここで気になるのは、別添資料6-1という記録紙のコピーで、地震後6分後あたりから10分間ほどで炉内圧力が急低下している状況である。これは非常用復水器の動作とも考えられるが、別の要因もありうる。この時点ではまだ津波は到来していないので水位・温度など各種のデータは正しいと思われるから、これらをクロスチェックしたりシミュレーションを試みる必要がある。
もう一つ検討が必要な情報は、エネルギー総合工学研究所が2011年11月30日に発表した圧力容器貫通に関するシミュレーションである。こちらはまだ原文が入手できていないが、報道(*5)によると「1号機では地震による原子炉の緊急停止から5時間31分後に核燃料の被覆管が壊れ、7時間25分後に圧力容器の底が破損。核燃料の85~90%が格納容器に落下したと算出された。2、3号機でも約7割の核燃料が溶けて格納容器に落下した可能性がある」という推定である。すなわち燃料溶融から2時間弱で圧力容器を貫通したというのである。しかしこれにはかなり疑問がある。
1979年のスリーマイル事故では、おそらく燃料棒の一部が2時間程度露出し、3時間後くらいから緊急注水を開始したものの、これがかえって急冷・再加熱を繰り返す結果となって燃料の破損を促進し、最終的に燃料の45%が溶融したと推定される。このように原子炉とは「冷やすのも危ない」という厄介なシステムであるのだが、福島1号機でも地震直後に炉内圧が急低下し、許容される温度降下率(55C/時間)に収まらないとして手動で非常用復水器の注水を止めたりしている。これが福島でも燃料の損傷を促進した可能性もある。いずれにしてもスリーマイルでは圧力容器は貫通しなかった。
圧力容器は、報道などでは単純な円筒形として表現されるが、実際には内部に複雑な構造物が一杯に詰まっている。スリーマイルでは10年後に圧力容器を開けることができ、観察したところ、溶融した燃料や破損した内部の構造物が乱雑に混じったガラクタ状になっていることがわかった。燃料から発生した熱の一部はこうした構造物に吸収されるし、壊れて圧力容器の底部に積み重なって、溶融した燃料が圧力容器の内面には直接触れずに、むしろ熱伝達の緩衝材として作用する可能性もある。炉内を想像したアニメーションなどで、燃料が溶けたチョコレートのように底部に溜まる様子を表現しているものもあるが、実際にはそのような単純な状態にはならないであろう。
スリーマイルの炉は福島1号機より熱発生量が3倍弱大きいので、福島1号機で大半の燃料が溶けたとしても、スリーマイルよりも少ない熱量ということになる。これからすると燃料の溶融が始まってから2時間弱で厚さ150mmの圧力容器が完全に開孔するという推定は理解しにくい。兵器として使われる砲弾のように、エネルギーを瞬間的に一点に集中させる設計になっていれば通常火薬でも厚い鋼板を貫通することができるが、乱雑に発熱体が積み重なっただけでは、そう簡単に厚さ150mmの鋼板を貫通することはないはずである。燃料の溶融が始まったとされるスクラムから約5時間30分後では、再臨界がなければ崩壊熱の発生は約1万kW前後と考えられるが、全体としてもこの熱量で乱雑に積み重なった熱量で、2時間弱のうちに圧力容器を貫通するだけのエネルギーが得られるだろうか。
冷却喪失後、数時間で燃料の損傷が始まったことはおそらく間違いないが、もし格納容器内部の機器や配管が健全という前提に立てば、格納容器の圧力上昇・破損燃料むき出しレベルの高線量の観測・水素の大量漏洩を説明するには、地震後7~8時間で溶融燃料が圧力容器を貫通したというシナリオが適合する。しかし前述のように、スリーマイルの例から考えるとそのシナリオには不合理な点も見出される。これらを総合して推定されることは、東電や経産省、さらには大前研一氏など著名人も利用して、大量の放射性物質や水素が出てきた経路を「津波による電源の喪失で圧力容器が貫通」という要因に限定したいという意図である。
もちろんいずれの原因でも、部分的再臨界(これはむしろ注水によって引き起こされる可能性がある)が起き崩壊熱以上の熱が集中した可能性もあるし、最終的に圧力容器貫通に至った可能性は否定できないが、その発端が地震の振動そのものなのか津波なのかによって、今後の原子炉再稼動の評価に大きく影響がある。津波ならば、堤防のかさ上げや非常用電源を高台に設置するなどの対策は一定の効果が期待できる。言いかえると原子炉と格納容器本体には触らず「外」の対策のみで済む。しかし振動であるとすると原子炉・格納容器本体の本質的な危険性に波及する。
ところでこの問題は、振動の問題をあえて伏せたとしても、各電力会社にとってあまり利益は考えられない。というのは筆者の記事(前出*3)で指摘したとおり、原子炉と格納容器の周辺のいずれかが、小規模といえども実際に振動で破損した場合には、今回の福島事故のような過酷事故に至らないまでも長期間にわたって発電ができなくなるうえに、改修に巨額の費用がかかるからである。現に浜岡原発の1・2号機は、耐震補強工事を検討した結果、費用がかかりすぎて経済性がないとして廃炉された実績がある。幸いにしてまだ過酷事故を起こしていない各電力会社も、早く脱原発を決断したほうが得策であろう。
(*1)東京電力プレスリリース
http://www.tepco.co.jp/cc/press/11120203-j.html
(*2)『朝日新聞』Web版
http://www.asahi.com/national/update/1202/TKY201112020569.html
(*3)福島事故「大前研一レポート」の評価
http://www.janjanblog.com/archives/57012
(*4)福島原発事故に何を学び、何を生かすべきか
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20111115/290563/
(*5)『毎日新聞』Web版
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20111201k0000m040066000c.html
JanJanニュース創立から参加している。交通政策・環境政策がテーマ。「政治談議」でなく論理と数字で評価することを重視。

