カルシュの見た出雲地方 (12)皆生温泉

美保湾 皆生にて
美しい大山を背景に弓ヶ浜沿いに、海中に湯が湧く有名な皆生温泉郷がある。温泉を楽しむだけでなく白砂青松の美しい海岸と併せた風光明媚な景色を眼にすることができる。温泉の歴史は比較的浅く120年ほど前に、漁師が皆生海岸の浅瀬に湧き出す熱湯を偶然に発見したことに始まる。ナトリウム、カルシウム塩化物の塩泉である。源泉は約80度。湧出量は毎分約4,500㍑で鳥取県ではもちろん最大規模である。この温泉が心身を癒し、保温効果に優れ、神経痛やリウマチ、皮膚病、婦人病などにも効くという。
それを聞いて、カルシュ夫妻はヨーロッパで古来行なわれているタラソテラピーを即座に連想した。日本の気候があわず病弱なエンメラのためにもカルシュの同僚の薦めとドイツ語の主任教授高畑喜市の誘いがあって、彼の案内で皆生温泉を訪れた。ここに来て、改めて東南に雄峰大山、北に美保関、そして遥か水平線に隠岐島を望む景勝地であることを認識した。皆生から弓ヶ浜にかけての一帯は、日本独特の美しい海岸

皆生にて、中央がエッメラ

皆生温泉食後のひととき 高畑教授夫妻とともに
風景であり、海辺には、のどかな温泉情緒の落ち着きと開放的で明るい雰囲気があふれている。夏は温泉街の前に広がる水質の良い海水浴場が広がっている。しかしカルシュにとってもっとも魅力があったのは秀麗な大山をゆっくりとながめることができることであった。ところでこの近くである境港市渡町に指定文化財の庄司家の母屋・茶座敷及び庭園がある。ここの当主とカルシュの交流が伝えられている。旧制松江高校の十期文甲生であった庄司保親である。彼はドイツ語をカルシュから直接教わった生徒ではないが、二年先輩の田総武光とともにカルシュとは親交があった。カルシュの再来日時には、歓迎会にも出席している。江戸後期の富豪の代表的な屋敷構えで、1832年(天保3年)大火に類焼したが、母屋は翌年再建された。同家には藩主の休息所としての茶座敷がある。歓迎会の翌日には、カルシュはここで庄司保親から茶の湯に招かれた。枯山水にして回遊式庭園として特徴がある白砂の中に目を見張る出雲式庭園の様相の名園である。
東京医科歯科大学 保健衛生学研究科教授です。専門は医用生体工学、医療福祉遠隔システム工学です。実際に脳低温制御の自動化システムおよびユーザが特別なソフトウエアと費用を必要としない福祉通信システムの開発・実用化を行っています。

